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簿記の歴史

 第2回 ~簿記の来た道(1)~

 複式簿記の特徴の一つとして、一つの取引(Transaction)を二つに分けて記録する、ということがあげられます。なにせ「複式」簿記というくらいですから、これは重要です。この二つに分ける、ということについて、複式簿記の古代ローマ起源説 を借りてお話しましょう。

運用は奴隷の仕事

 古代ローマ時代では、金儲けをすることは卑しい行為とされ、市民がそれを公然と行うことは禁じられていました。しかし、お金はたくさんあるにこしたことはありません。そこで、資金を持っていた市民たちは、奴隷を使うことを考え出しました。奴隷にお金を預けて商売をさせる、つまり、お金の運用を奴隷に任せたのです。
 その際、主人はお金を預けっぱなしだったわけではありません。記録を残し、奴隷から報告を受けるようにしていました。この記録の方法として、勘定(Account)というものを用いていました。

 主人がお金を預けるということは、奴隷にしてみればお金を受け取る、ということになります。そこで、主人がお金を預けたことを記録すると同時に、奴隷がお金を預かったことも記録します。これらの記録が勘定です。

 主人のお金の記録を主人勘定、奴隷が預かったお金の記録を奴隷勘定といいます。また、奴隷は主人のお金で取引をします。例えば、奴隷が他の誰かにお金を貸すとしましょう。この場合、お金を貸したことを奴隷勘定に記録します。その一方で、誰に貸したのかを記録する為に、取引先勘定をつくります。このようにして、お金が人から人へ移動するたびに、お金を渡す人とお金を受け取る人に分けて記録を残していました。
 また、一つの勘定には二つの記入欄がありました。今でいう、借方(Debit)と貸方(Credit) です。お金を誰かに渡した時、貸方に相手の名前と金額を記入します。逆に、お金を受け取った時、借方に記入します。そうすることで、誰が、誰に、いくら渡したのかがわかるようにしたのです。

 勘定と借方・貸方を使って記録を残すことで、奴隷は預かったお金がどうなっているかを主人に説明できます。また記録を残し説明を受けることで、主人は安心してお金の運用を任せることができます。このことをもって、古代ローマ説は複式簿記の起源をこの時代に求めるわけですが、この時代の記録方法は、複式簿記というにはまだまだ素朴すぎます。この段階の簿記は、 忘れない為のメモ書きとたいして変わらないからです。
 次回は、中世イタリアを舞台にして、かなり完全体に近づいた複式簿記の姿をご紹介しましょう。

【注釈】
1. 中世イタリアに起源を求めるのが一般的ですが、考え方によっては古代ローマもありうる、ということです。


2. Debitは、もともとラテン語でdevere(与える)、つまり「返すべき義務」を表していたのが、歴史の中で変化したものです。また、Creditは、ラテン語でhavere(持つ)、つまり「受け取るべき権利」を表していたものが変化しました。よって、Debit、Creditという言葉の意味を考えても、そこから起源をたどることはできません。また、日本語の「借方」「貸方」は、英語のDebitとCreditを訳しただけなので、こちらはもはや単なる記号です。

 

 

 

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